【小説】楽園のカンヴァス(原田マハ)

【小説】楽園のカンヴァス(原田マハ)

原田マハさんの「楽園のカンヴァス」を読みました!

「楽園のカンヴァス」を手に取った理由

「本日は、お日柄もよく」を読んでかなり面白かったので、原田マハさんの別の作品も読んでみたいと思い、「楽園のカンヴァス」を読みました。(どちらもかなり楽しめたので、ほかの作品も読んでいきたいと思っています。)

 絵画に関する内容ということで、知識がなくても楽しめるだろうか?という不安も少しありましたが、問題なく楽しめました!

あらすじ

 みなさんはキュレーターという職業をご存知ですか?

 僕はこの本を読むにあたって調べて知ったのですが、ざっくりいうと「美術館や文化施設において、学術的な専門知識をもって美術資料の収集や保管、展覧会の企画や構成を行う専門職」のことらしいです。もともとキュレーターというのは欧米における呼び方で、日本で言うところの学芸員に近いイメージかと思います。

 「楽園のカンヴァス」は19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した画家アンリ・ルソーに魅了されたキュレーターと研究者を描いた物語です。

 ある日、ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウン宛に伝説のコレクター、コンラート・バイラーから手紙が届く。その手紙には「アンリ・ルソーの名作を所有している。それを調査してほしい。」と書かれてあった。誰も姿をみたことのない伝説のコレクターの所有する名作、これが本物で展覧会に引っ張り出すことができればティムのキュレーターとしての名声は間違いなく、胸を躍らせながらバイラーの邸宅のあるスイスに向かった。

 しかし、ティムが招かれたバイラーの大邸宅には日本人研究者、早川織絵もいた。バイラーからの依頼は、7日間という期間の中で、ルソーの名作「夢」に酷似した謎の作品「夢をみた」の真贋判定を行うこと。ただし、判定を行うのは二人、正しく真贋判定を行った者に「夢をみた」を譲るとのこと。謎の古書を手がかりに「夢をみた」に隠された真実、ルソーとピカソの二人の天才がカンヴァスに込めた思いを読み解いていく。

 ティム織絵、二人の真贋判定の勝負の行方は…

 謎の名作「夢をみた」は誰が書いたのか…

感想

 ルソーもピカソもあまり知らない自分がどこまでこの物語に入り込めるか、楽しめるか心配していましたが、全くいらない心配でした。絵画について知識のない人でも楽しめる、むしろ知識のない人にこそ読んでほしい話です!

 キュレーターとはどのような仕事か、ルソーがどのような思いで絵を描いていたか、ルソーの絵の魅力はどのようなところにあるか、絵画に関する知識がない自分にとって新鮮なことばかりで、読み進めれば読み進めるほど世界が広がっていくようでした。

 ピカソは、この「醜い絵画」を突きつけることで、「美とは何か?」「美術とは何か?」という、とてつもなく大きな、かつ本質的な提議をしたのです。
 それは、見る者にとって、いきなり素手で心臓をまさぐられるようなものでした。せっかくこちらに向きかけていた人々の心が離れる危険を冒してまで、どうしてそんなことをしなければならないのか。苦労をしなくても、多少の早足を心がけさえすれば、変わりゆく時代にくっついていけるじゃないか。しかし、そんなことではピカソはまったく満足できないのでした。
                          (P185)

 ピカソはかなり有名なのでいくつか作品を知っていますが、正直どこがすごいんだろうと思っていました。今もピカソの絵が好きかと言われると答えはNOになってしまいます。なんとなく見ていて不安になる不気味さを感じてしまい…それでもあの絵には上記のような思いが込められていると思って見ると、印象はかなり変わってくるように思いました。

 美を突き放した醜さ、それこそが新しい芸術に託された「新しい美」。それが、ピカソの結論でした。
                          (P189)

 全体を通してかなり面白く、お気に入りの小説になったのですが、特に印象に残っている場面が下記です。

 アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ。
(中略)
「なんとなく、わかったんです。そのとき、ルソーの気持ちが。彼はアートだけをみつめていたわけじゃない。この世界の奇跡をこそ、みつめ続けていたんじゃないかな、って」
                          (P233)

 この小説のどこまでが現実の話で、どこからがフィクションか、正直いまいちわかっていませんが、私も少しルソーが好きになりました。

 この世界を愛する、この世界の奇跡を見つめる。
 ルソーのように世界を見られたら素敵だなと思いました。

 夕日が綺麗だなと思ってスマホで写真を撮ろうとしたら、目の前にかわいい猫が歩いてきてちょこんと座ってくれる。引っ越した先で美味しくてコスパのいいパン屋が見つかる。「楽園のカンヴァス」のような素敵な小説に出会える。実は小さな奇跡はいっぱいあるのかもしれない。

 あと、ライバルというかたちになりますがティムと織絵が人間的に魅力的で好きです。ティムはどちらかというと小心者で精神的にあまり強くはないが、誠実で真面目。織絵は芯があり強く聡明な女性でありながら、引くところは引く奥ゆかしさも合わせ持っている。性格は全然違う二人で、共通点はたったひとつ、美術が好き、ルソーとその作品を愛しているというという点だけです。

 「崩れる脳を抱きしめて」のユカリさんしかり、「本日は、お日柄もよく」の厚志しかり、魅力的な作品には魅力的な人物が欠かせませんね。

 ルソーを愛するティムと織絵の物語、ピカソとルソー二人の天才の物語、時代を超えて繋がる二つの物語の結末はどうなるのか。

 画家の絵画にかける情熱、キュレーター・研究者の絵画を守りたいという思いには胸を打たれます。

 ぜひ読んで楽しんでください!

「楽園のカンヴァス」を読んで得たこと・学んだこと

 これまでに何度も美術館や展覧会に行ったことはあるが、ティムや織絵のように絵をみたことはない。今度見に行くときには、自分なりにその絵を描いた人の思いや情熱を想像しながら、絵の世界にのめり込んで、寄り添って見てみたい。

 そうすれば僕もルソーやピカソを友達と思えるだろうか。ティムや織絵のように。