【小説】本日は、お日柄もよく(原田マハ)

【小説】本日は、お日柄もよく(原田マハ)

「本日は、お日柄もよく」を手に取った理由

 ツイッターで読書好きの方を中心にフォローさせていただいているのですが、その方々のツイートの中で、「原田マハ」「本日は、お日柄もよく」という言葉を度々見かけたので気になって調べてみました。

 スピーチライターという仕事について書かれた目頭が熱くなるお仕事小説。ということで、スピーチライターという仕事にも興味が湧いたし、仕事に情熱を注ぐ内容の小説とかドラマが結構好きなので、読んでみたいと思って購入しました。

 コロナが流行する前は、本屋に行ってふらふらしながらなんとなく惹かれた本を買うという形で選んでいたけど、最近の本のチョイスはほとんどツイッター頼みです。笑

あらすじ

 日々なんとなく仕事をこなしている普通のOLの二宮こと葉は、ずっと片思いしていた幼馴染の今川厚志の結婚式にゲストとして招待され、暗い気持ちで出席していた。好きな幼馴染と自分ではない別の女性との結婚式、沈んでいたこと葉の気持ちをたったひとつのスピーチが一変させた。伝説のスピーチライター久遠久美の祝辞は、引き込まれ、涙が溢れ、温かい気持ちになる衝撃的なスピーチだった。空気を一変させ、人の心を動かす言葉に魅せられたこと葉久遠久美に弟子入りし、そこからこと葉の人生は変わっていく…

感想

 みなさんは自分の言葉にどれだけ気持ちを込めて話していますか?相手に何を伝えようと思って話していますか?

 この小説を読みながら僕が思い出したのは、自身の結婚式で両親への手紙を書き、感謝の言葉を伝えたときのことでした。自分がこれまでの人生でいちばん悩んで、言葉に思いを込めて行ったスピーチだったと思います。学生のときの学会での発表や会社におけるプレゼン等、多くの人を前に話すこともそれなりにありましたが、「本日は、お日柄もよく」を読みながら、本当の意味で聴く人のことを考え、自分の気持ちや思いを込めて話せたのは、結婚式の両親への手紙だけだったなと思いました。

 この小説のすごいところは、声のない文字だけのスピーチで胸が熱くなることです。全体としても面白いのですが、親友に送るお祝いのスピーチ、日本を良くしようと命をかける政治家のスピーチ、お世話になった人の息子に送るお祝いのスピーチ、ひとつひとつのスピーチに目頭が熱くなります。

 マイクの前に立ち、係りの人にスタンドの高さを調節してもらっている。マイクに手をやり、黙っている。メモは持っていない。
 ざわざわ、ざわざわ、歓談が続いている。なかなか話し出さない。ざわ、ざわ、ざわ。会場の声が、やがて波が引くように静まった。まだ話さない。
 なんだろ、あのひと?スピーチするのに、黙り込んじゃっている。
 不審な空気が広がったのか、やがて会場は、水を打ったようにしんと静まり返った。
「あれは、二ヶ月ほど前のことだったでしょうか。ある夜、厚志君が『相談がある』と言って、私に電話をしてきました」
 ぎょっとした。なんだかすごい始まり方だ。スピーチというより、告白みたいじゃないか。私は思わず身を乗り出した。
(中略)
 あたたかな笑い声が起こる。厚志くんと恵里ちゃんは、顔を見合わせて笑った。その拍子に、恵里ちゃんのつややかな頰を、涙がひとすじ、伝って落ちた。
「お父さまも愛されたフランスの作家、ジョルジュ・サンドは言いました。あのショパンを生涯、苦しみながも愛し続けた彼女の言葉です。『愛せよ。人生において、よきものはそれだけである』
本日は、お日柄もよく、心温かな人々に見守られ、ふたつの人生をひとつに重ねて、いまからふたりで歩んでいってください。たったひとつの、よきもののために」
(P25)

 こと葉の人生を変えた厚志の結婚式での久遠久美のスピーチです。全部通して読んで欲しいので、最初と最後以外省きましたが、それでも引き込まれませんか?

 かなり序盤なのですが、僕はこのスピーチですでにぐっときました。

 また、これまでの人生で自分が多くの人を前に話すとき、「聴く人をいかに楽しませるか」という工夫・配慮が決定的にかけていたように思えました。
定められた時間内に、いかに正確に伝えるかということにはそれなりに力を注いでいましたが、淡々と正確に資料に記載している内容を説明してきた自分の発表は、温度がなくて楽しいものではなかったのだろうと思います。このことに気づけただけも「本日は、お日柄もよく」を読んだ意味があったと思います。

 強い思い、優しい思いの詰まった言葉がどれだけ人の心を動かすか。言葉の持つ力に気付かされます。

 話の内容としてももちろん面白いですし、スピーチについても非常に勉強になります。この本を読んだことですこしだけ、今後の自分の人生が明るく豊かになりそうな気までしました。

「本日は、お日柄もよく」を読んで得たこと・学んだこと①

 スピーチの仕方についてもかなり具体的で勉強になりました。

 まず、心を平静にして、思い浮かべる。このスピーチの目指すところはどこにあるのか。
(中略)
 それから、スピーチに向かうとき。必要以上に力を入れたり、威勢を張ったりする必要はない。人前に出るのだから、無理に目立つ必要はない。力を抜き、心静かに平常心で臨む。
 そして、壇上に上がって、まず五秒待つ。会場が静かになるのを。五秒で無理なら、十秒。それでもだめなら十五秒。十五秒というのは、結構長い。たいてい、聴衆は十五秒以内に静まる。だから壇上に上がってすぐに始めずに、五秒間隔で静かになるのを待つ。
 スピーチの導入部も、あくまで静かに始める。始め方はさまざまだが、「ただいまご紹介にあずかりました」とか「ひとことお祝いを述べさせていただきます」のような、無駄な枕詞は極力避ける。いきなりエピソードから始めてもいい。結論を先に言ってしまってもいい。とにかく、最初のフレーズがどんなふうに聴衆の耳に届くか。
(中略)
「静かに静かに始めて、中盤あたりで徐々に盛り上げていく。そして最後に心をつかむ。最初の静かな一言と、最後の情感のこもったフレーズで、聴衆の感動の振り幅が決まるの」

(P80)

 「スピーチの中に明確で強い伝えたい思いがあって、その思いを聴く人により正確に、より正しく伝えようとすること」自分なりにこの本を読んで魅力的な言葉を話すために必要なことです。

「本日は、お日柄もよく」を読んで得たこと・学んだこと②

 困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。
 三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。
 止まらない涙はない。乾かない涙もない。顔は下ばかり向いているわけにもいかない。歩き出すために足があるんだよ。

(P332)

 自分が苦難に立ち止まりそうになったとき、思い出したい。