【小説】ライオンのおやつ(小川 糸)

【小説】ライオンのおやつ(小川 糸)

2020年の本屋大賞で2位になった一冊。
人生の最後に食べたいおやつは何ですか?

あらすじ(ネタバレなし)

主人公の海野雫は父親に男手一つで育てられた女性。独り立ちしてから闘病生活を送っていましたが、医師から余命宣告を受け、人生の最後を瀬戸内海に浮かぶ島のホスピスで過ごすことを決めます。そのホスピスでは、毎週日曜日におやつの時間があり、入居者が食べたいおやつをリクエストできるようになっていました。しかし雫はなかなか自分の食べたいおやつを決めることができませんでした。

残された人生を、どう過ごすか…

ホスピスに入った雫は、これからはいい子を演じるのをやめて自分に素直に生きようと心に決めます。我慢を重ねてきた雫が、ホスピスに入って長年の夢を叶えたり、一度は無くしていた食べる楽しみを思い出したりする様子は温かい気持ちになります。しかし、初めはどこか達観していた雫が、少しずつ自由がきかなくなっていく体に死への恐怖を感じる姿に心締め付けられました。
ホスピスのスタッフや入居者の方との関わりの中で、雫の命への向き合い方が少しずつ変わっていく様子は、切なくもあり、清々しくもあり、生きていることの尊さを感じずにはいられませんでした。

誰にでもある命の終わり。私自身、“死=怖いもの”という思いがあって、なんとなく避けて生きてきました。本書を読んで、私は人生の終わりをどんな風に締めくくりたいんだろう、命が尽きるまでに何をしたいんだろう、そんなことを考えさせられました。
何よりも、死は思っているよりも怖いものじゃないかもしれないと思えたのは、この本の力だと思います。

おやつの時間には、リクエストされたおやつと共にリクエストした人のエピソードが紹介されます。そこには入居者の人生のターニングポイントの話や、幼少期の思い出、良いことばかりじゃないけれどその人を象徴する出来事が詰まっています。最後に、雫が選んだおやつとは…。

涙なしには読めない一冊

読み終わるまでに何度泣いただろうというくらい泣ける一冊でした。
余命宣告された人たちが暮らすホスピスという舞台でありながらも、穏やかな島と温かい人たちと、そして美味しいごはんに囲まれて、残された時間を過ごす人たちに大切なことを教えてもらえます。著者の小川さんはどうしてこんなにもリアルに雫の心情を表現できるのだろうと本当に驚きました。
切なくも温かい物語、是非読んでいただきたい一冊です。