【小説】ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ)

【小説】ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ)

本屋大賞2019でノンフィクション本大賞を受賞した一冊。すこし前にTV「深イイ話」で紹介されていて面白そうだったので購入しました。

あらすじ(ネタバレなし)


英国に暮らす「ぼく」が元・底辺中学校で様々な壁にぶつかりながら成長していく様子を、日本人の「母ちゃん」の目線で綴っています。
厳格なカトリックの小学校に通っていた「ぼく」。そんな彼がひょんな理由で進むことになった中学校は、地元の学力ランキングで「元・底辺」、今はぐんぐん順位を上げてランキングの真ん中ぐらいに位置する中学校。

そんな元・底辺中学校での生活は、事件の連続です。人種差別、ジェンダー、貧富の差、そしてアイデンティティー。思春期真っ只中の「ぼく」がすべての出来事に真正面からぶつかりながら、子どもだからこその感覚でぐんぐん成長していきます。
イエローでホワイトな「ぼく」がちょっとブルーになりながらも、世界の縮図のような様々な問題に直面していく毎日は、ドキドキでファンキーで、発見の連続です。

多様性を「自分ごと」として考えさせられる


人種差別でヘイトをぶつけ合う友人2人の間で板挟みになり、悩む「ぼく」が母ちゃんと話すシーンがあります。

「多様性っていいことなんでしょ?」

「うん」

「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの?」

「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ」

「楽じゃないものが、どうしていいの?」

「楽ばっかしてると、無知になるから。多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」

p 59


多様性が溢れる中学校で、引き起こる様々な差別。友人の間で繰り広げられるバトルに「彼らは馬鹿なの?」とうんざりする息子に、母ちゃんは「彼らは馬鹿じゃなくて“無知”なんだよ」と返します。そんな母ちゃんの言葉を受けて、友人同士のバトルを解決しようとする「ぼく」。子どもたちが「無知」ではなくなる瞬間に、母ちゃんは子供の成長はなんて早いんだろうと驚きます。

日本では、見て見ぬ振りをされてしまったり、本質を理解しないまま避けてしまう様々な差別問題。中学生という子どもと大人のはざまの目線で、リアルに描かれている本書は、多様性を“自分事”として考えさせてくれます。
そして本書の魅力は、英国という舞台で、かつ「ぼく」の日常で描かれることで、リアルな体験談でありながらも、変に暗い気持ちにならないところ。物語を楽しみながら多様性に対する課題を素直に受け止められるのではないかと思います。

英国の教育は日本とこんなに違う!


個人的に、本書の楽しみ方は3つあると感じています。
 ①「ぼく」の目線で物語に入り込んで楽しむ。
 ②「母ちゃん」の視点で子どもの悩みを見守り、成長に感動する。
 ③ 日本とは全く違う「英国の教育」を知る。
③の英国の教育は、特に本書のテーマである「多様性」を、いかにして子どもに学ばせるか。英国で導入されている多様性を学ぶための様々なカリキュラムが書かれています。

「ぼく」がシティズンシップ・エデュケーションの授業で学んだ「エンパシー」と「シンパシー」の違いが印象に残っています。どちらも日本語だと共感と訳されることが多いようですが、「シンパシー」は“同じような意見を持っている人々の間の友情や理解”のこと、一方で「エンパシー」は“他人の感情や経験などを理解する能力”のことと紹介されています。
つまり、シンパシーは同じ境遇の人に対して自然と感じる想いで、エンパシーは自分とは違う境遇の人に対して想いを推し量ること。授業で習ったエンパシーについて「ぼく」は母ちゃんにこう言います。

「EU離脱やテロリズムの問題や世界中で起きているいろんな困難を僕らが乗り越えていくには、自分とは違う立場の人々や、自分とは違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事なんだって。」

p 74

母ちゃんはそんな「ぼく」の言葉を受けて本書にこう記しています。

EU離脱派と残留派、移民と英国人、様々なレイヤーの移民同士、階級の上下、貧富の差、高齢者と若年層などありとあらゆる分断と対立が深刻化している英国で、11歳の子どもたちがエンパシーについて学んでいるというのは、特筆に値する。

p 76

決して英国だけではないこれらの問題。日本の教育でも、このように多様性の根本を学ぶ機会があると良いなぁと思いました。

中学生にも読んでもらいたい一冊


「ぼく」の学校生活を通して、多様性について考えさせてくれる一冊。大人が読んでももちろん面白いですが、中学生や高校生にも是非読んでもらいたいなぁと思いました。日本とは違うところももちろんありますが、抱えている課題や、その対処法はきっと万国共通。是非、「ぼく」と「母ちゃん」と一緒に、ドキドキで学びの多い学校生活をのぞいてみてください!